BPQC

28 JUNE 2017

BPQC暮らしの中にある、私のスタンダード

季節感あふれるレシピに定評のある料理家の渡辺有子さん。
すみずみにまで独自の感性が行き届いたライフスタイルにもファンが多い。
料理家として大切にしていること、ものを選ぶときのこだわりについて聞いた。

PHOTOGRAPHS:AKIKO BABA
TEXT:MARIKO URAMOTO

食の楽しさを伝え、コミュニケーションの場を広げていく

自然光がたっぷり入るアトリエに「どうぞ」と笑顔で出迎えてくれた料理家の渡辺有子さん。キッチンテーブルに並ぶのは、細い葉先をたっぷりつけたフェンネル、真っ赤に実ったプラム、みずみずしいパクチーなど、旬の野菜の数々。渡辺さんはそれらを手に取りながら、てきぱきと料理を始めていく。今日は夏らしい爽やかな一皿を振る舞ってくれるという。

「料理の世界に入って、気づけば20年経ちました。きっかけは、雑誌『Olive』で連載されていた堀井和子さんの“Eating”。おいしそうな料理に素敵な器、添えられたカトラリー。その世界観すべてに胸がときめいて。そんな食の楽しさを私も伝えられたらと思い、料理の道に進むことにしたんです」。
大学卒業後、料理家のアシスタントを経て独立。以降、テレビや本、雑誌などさまざまなメディアを通じて、数多くのレシピを提案してきた。しばらく続けるうちにふと、“直接伝える”ことにも興味を持つようになった。
「料理はコミュニケーションの一つだと思って仕事を続けてきましたが、どちらかというと一方的な発信でしかなかったのかなって。私のレシピを見た読者の方はどう作って、どんなふうに美味しいと感じたのか。わかりにくいところはなかったか。作る側、食べる側の意見を直接やりとりできる場があったらと思い、料理教室を始めることにしたんです」。

料理教室を兼ねたアトリエ作りは、インテリアデザイナーの片山正通さんに依頼して、中古マンションの一室をリノベーション。シンプルで気持ちのいいキッチンスタジオに生まれ変わった空間を「FOOD FOR THOUGHT」と名付け、2015年4月に料理教室をスタートした。
始めるまではとても不安だったと振り返るが、継続する人や遠方から足を運ぶ人も多くいて、毎回、食の興味にあふれた生徒たちで席は埋まる。この場を持ったことで、渡辺さん自身にも新たな気づきがあった。
「“どう伝えるとわかりやすいか”を今まで以上に考えるようになりました。雑誌やテレビの世界は、決められたテーマに合わせたレシピを作ることがほとんどですが、ここでは、私がなぜこの料理を紹介したいのかという理由を明確にしないといけないですし、来てくださった方の家の定番料理になるようなものを紹介したい。だから、毎回メニューが決まるまでにはものすごく時間がかかる。作りやすい量で、覚えやすい分量か。定番野菜を使うだけでなく、珍しい食材を使って、新しい味に出会う場にもしたいので、材料選びにもこだわります」

料理教室では料理を作るだけではなく、周辺にある器やカトラリーも提案したいと、改めて選びなおし、少しずつ買いそろえることもした。
「長く使うものなので、佇まいが美しく、本当に使いやすいものがいい。器でいえば、白が定番。私が作る料理は季節の素材がメインなので、旬の色がきちんと映えるものがいいですね。フランスの蚤の市で見つけた古い皿から日本人の作家さんに作ってもらった器まで、さまざまな白が集まっています」

渡辺さん自身が“Eating”の世界に夢中になったように、いま彼女が紡ぐ料理の世界から食の豊かさ、暮らしの楽しさを感じ取る人は多い。本や雑誌に登場したアイテムは問い合わせも多く、その声に応えるように今春、新たな場を作った。
「アトリエの近くに、アトリエと同じ名前の『FOOD FOR THOUGHT』という店をオープンしました。私が使いたいと思う器やシルバーのカトラリー、旬の食材で作ったピクルスやコンフィチュール、オリジナルのエプロンなどを置いています。たとえば『久しぶりに料理をしたくなった』と思うきっかけなったら嬉しいし、『この間、買った器にはこんな料理を合わせました』という話を直接聞けるのも楽しいですね」
アトリエと同じ店名には“生きるためのヒント”という意味があり、日々をより豊かにする自分なりのなにかをここで見つけもらえたら、という思いが込められている。
「ファッションに関しても、昔からそんなに好みが変わらない」と話す渡辺さん。「流行の色やデザインにはあまり興味がなくて、好きなものをずっと着続けるタイプ。清潔感のあるスタイルが好みで、着ていると自分も落ち着きます。料理している時間が長いので、動きやすくて着心地がいいもの。じゃぶじゃぶ洗える素材かどうかも重要です。そういう意味で今日身につけているセットアップは涼感のある柔らかな生地で、とても快適。トップスは後ろにスリットが入っていて、ひらひらと動きがでて軽やかです。仕事中はきゅっと裾を結んで、二つの表情の違いを楽しんでいます」

渡辺さんの中では、器やカトラリーと服を選ぶ基準は基本的に変わらない。生活にまつわるものは、どれもシンプルで美しく、長く付き合えるもの。衣食住すべてを同じ目線で選んでいるからか空間には統一感が生まれ、心地良い場所になるのだろう。この気持ちのいいアトリエで渡辺さんが作ってくれたフェンネルのサラダを頬張ると、しみじみとおいしさが伝わり、心が満たされていく。こんなおいしいごはんがいつでも食べられたら、とつぶやくと、嬉しい言葉が返ってきた。
「食との関わり方を少しずつ広げていくうちに、自分で飲食店をやってみたいと思うようにもなってきました。少し時間はかかるかもしれないですけど、いつかそういう場ができたらいいですね」

渡辺有子 料理家

素材の味を生かした、やさしくシンプルな料理が人気。食、暮らしのまわりのことを提案するアトリエ「FOOD FOR THOUGHT」で料理教室や食事会を開催するほか、同名のショップを代々木上原にオープン。食にまつわる表現の場を広げている。
着用/掲載アイテム
テンセルジャージ プルオーバー
テンセルジャージー ワイドパンツ
船型エコバッグM
船型エコバッグL
ファブリックミスト

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