BPQC

26 JULY 2017

BPQC暮らしの中にある、私のスタンダード

一週間で一冊の本を売る〈森岡書店〉を営む森岡督行さん。
このユニークな本屋には、国内外を問わず、日々、多くの客が訪れる。
人々を惹きつける店主のモノの見方、選び方を教えてもらった

PHOTOGRAPHS:AKIKO BABA
TEXT:MARIKO URAMOTO

好きなものに凝り固まらずに
興味の幅を広げていく。

開業は2006年。茅場町の運河沿いに佇むビルに居を構えた〈森岡書店〉は店主の森岡督行さんが厳選した古書と古道具が並ぶ店として船出した。併設のギャラリーでは写真の展示や年に数回、新刊の出版イベントを開き、古書店の枠を超えてさまざまな人々が集まる店になった。それから10年が経とうとしていた2015年。新たなことを始めたいと考えた森岡さんは「一室、一冊」というコンセプトの新しい〈森岡書店〉を銀座の端っこで再スタートさせた。

新天地となった鈴木ビルは、昭和四年に建てられた趣深い近代建築で、かつて、名取洋之助や土門拳など名だたるクリエイターがこのビルに集まり、プロバガンダ誌『NIPPON』を作っていたという歴史ある建物だ。その1階、わずか5坪の空間を“作家と鑑賞者の幸せな対話ができる”スペースに見立て、新しいスタイルでの運営を始めた。「ここに行けばなんでもある」という店が増える現代に「一冊の本があれば十分」という森岡さんの思い切った決断だった。

本の展示期間は約一週間。年間述べ50人ほどの作家の作品を紹介している。茅場町時代から付き合いのある作家もいれば、この地で新しく出会った人もいる。ここでは森岡さんと作り手だけでなく、さまざまな出会いが生まれている。
「これまで作家と鑑賞者はリアルな接点を持ちにくかったけれど、この場所で展示をすることで、直接会って話をして、関係を育んでいくことができる。森岡書店は作品を介した出会いの場、オフ会みたいな場所なんです。それなら今度はその反対の“オン会”をやってみようと思って、今年の春に森岡総合研究所という新たな取り組みをスタートさせました」。
“空間のない森岡書店のようなもの”という森岡総合研究所は、ウェブ上で参加者同士が会話できるサービス「行間に浸る」と、リアルな行事に参加できる「行事にも浸る」という2つのコンテンツがある。「行間に浸る」は定期的な読み物を配信し、それを共通項に参加者同士が自由に会話していくオンラインサービスだ。一方、「行事にも浸る」は、古書や古道具が好きな森岡さんを先導役に古書店や骨董市巡りなどを開催する。オンとオフを行き来しながら、多くの人とさまざまな試みを楽しみたいという。

森岡さんが店に立つのは週に一日ほど。他の日は、ホテルやゲストハウスの本棚の構成を考えたり、本のプロデュースをしたり、イベントを企画したりと日本全国だけでなく、海外までも飛び回る。
「打ち合わせやプレゼンも多く、こんな風にジャケットを着る機会が増えました。移動も多いので、車内で座りっぱなしでも疲れにくい服がいいですね。出張では、シワになりにくい素材も重宝します」
気に入ったら同じ色や形の服を長く愛用するという森岡さん。身の回りのものを選ぶときは一つの基準があるという。

「空間に置いたときにどういうことが展開されるのか、想像を掻きたてられるものがいい。こういう選び方を意識するようになったのは12、3年前、堀江敏幸の『もののはずみ』を読んだことがきっかけです。「所有する」ということは、それがある空間に身を置くことによって、自分の中にはずみが起きるという内容に深く共感しました。たとえば、このテーブルで食事をした時にどういう会話が生まれるか、この灯りのもとで仕事をするとどんなことを思い浮かべるか。そんな妄想が広がるとワクワクします」

森岡さんの身の回りのものを見ていると、どれも存在感があって愛嬌がある。それは、単に選ぶだけではなく、対象をどう捉えるかを意識していることが大きい。
「モノにいい面、悪い面があるとすれば、僕は積極的にいい面、美しい面に目を向けたい。谷川俊太郎さんは、ある詩で『世界の豊かさに目を向ける』と言っていたけれど、その言葉を見た時にきっとそういうことなのだろうと納得しました。どんなものにも良いところ、尊敬できるところがあり、それをもっと深く知りたいと思って見ています」。

また、新しい出会いがもたらす“気づき”も大切にしている。ふだんは身につけることのない色の服や好みのテイストからかけ離れた小物も「似合わない」と素通りするのではなく、近づいてみると楽しいこともあると発見したのだとか。
「先日、店でコサージュの展示会をしたときに、作家の話があまりに情熱的ですごく興味を持ちました。試しに僕もつけてみたら、これが案外似合ったんです(笑)。いつもの着こなしに新鮮味が加わっておもしろかった。僕は自分のスタイルが確立されている人にとても憧れますが、今は、好きなものだけに凝り固まらないようにしたい。この場所がさまざまな出会いを連れてきてくれて、自分の世界がどんどん広がることに喜びを感じています」

森岡督行 YOSHIYUKI MORIOKA

株式会社森岡書店代表。山形県出身。大学卒業後、1998年、古書を取り扱う「一誠堂書店」に入社。2006年、茅場町に「森岡書店」を立ち上げる。2015年、現在の銀座一丁目に移転。著書に『BOOKS ON JAPAN1931-1972』『荒野の古本屋』などがある。
着用アイテム
4WAYストレッチ ナイロンセットアップジャケット
4WAYストレッチ ナイロンセットアップパンツ
モックネック長袖カットソー

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