BPQC

19 SEP 2018

ものづくりの現場から

肌寒い季節に寄り添ってくれるような、柔らかくて温かいケーブルニット。
BPQCが米富繊維と作り上げた新作アイテムはそんな理想を形にした。
デザインから編み立て、リンキング、一枚のニットができるまでをたどった。

PHOTO: AKIKO BABA
TEXT: MARIKO URAMOTO

高度なローゲージ製造の技術が光る、
軽やかなケーブルニット。

江戸時代から発達した繊維産業を基盤に、ニット文化を発展させた山形県山辺町。ここにユニークな発想と技術で注目を集めるニットメーカーがある。1952年に創業した〈米富繊維〉だ。今から40年以上も前にテキスタイルの開発部門を設置し、春夏に着られるサマーセーターや異なる形状の素材を組み合わせたニットツイードなど、さまざまなヒットアイテムを発表してきた。その編地開発を支えているのが、国内でも随一という20台近くあるローゲージ主体の編機だ。かつて、ローゲージニットは「重い」というイメージが定着し、薄手のカシミアやシルクニットの台頭によって、衰退の一途をたどっていたという。米富繊維は、素材の開発から着手することで、このデメリットを払拭できないかと考えた。ローゲージに対応した編機がどんどん廃盤になっていくという厳しい道のりだったが、常務取締役の峰田昭浩さんはこう振り返る。「創業当時から付き合いのある地元の撚糸、紡績工場にも協力してもらい、新しい素材でローゲージに適した編地を開発することができました」。軽くて保温性のあるもの、春夏に着られるものなどバリエーションは増え続けている。現在は市場のローゲージ人気も回復し、米富繊維では国内有数の生産体制でほぼ一年中、編機を稼働させている状態だという。

一方、BPQCは、ローゲージの製造に定評のある米富繊維とともに、秋冬に向けたオリジナルのニットを制作することにした。理想としたのは、見た目にも温かさが伝わってくるような立体感のあるケーブルニットだ。バイヤーの真下郁未さんは「冬のニットらしい、たっぷりとした厚みがありつつ、長時間着ていても疲れないような軽さも実現したい」とリクエストした。そこで米富繊維から提案されたのがシャペウという毛糸。軽くて柔らかく、ふくらみがあり、保温性もある。「この糸なら、お客様が一目惚れするようなケーブルニットができそうだと思いました」と真下さん。使う糸が決まったら、ニットの設計図を作る。米富繊維が誇る、開発室の出番だ。峰田さんはいう。「ローゲージニットはただ、ざっくり編めばいいというわけにはいきません。柄や糸の特性に適したデザインを設計するのが、理想的なニットを作れるかどうかの要になる。人の感性がなにより大事なんです」。

米富繊維では、勤続40年以上のベテランを中心とした数人の職人たちが、複雑なプログラミング作業を行っている。ニットは縮絨機にかけると若干生地が縮むので、そのサイズダウンも見越して計算しなくてはいけない。「先読みのセンスも開発には必要なんですよ」と峰田さん。今回、BPQCがイメージしたケーブルニットは、熟練の職人でも通常の3、4倍は編地設計に時間がかかったという。それほど随所に緻密な設計を要した。理想的な立体感を出すためにケーブルをどこに配置するのか、袖にどれぐらいのボリュームを持たせるか、肩周りをスッキリと見せるにはどうしたらいいか。そういったことを一つずつクリアにしていく。また、ゲージ数を決めるのも開発者の仕事。厚みのあるニットの場合、3ゲージで編むことがほとんどだが、あえて5ゲージにした。そうすることで複雑なうねりを表現でき、肉厚のニットを作ることができた。こうやって、細かいブロックを積み上げるように効率の良い柄組みを決めていくのだ。

プログラミングが完成したら、ローゲージ専用の編み立て機で前身頃、後身頃、袖、首周りなど部分ごとに編んでいく。その後、それぞれのパーツを縫い合わせるリンキングを行う。編地を一目一目刺していく作業だが、機械では行えない。これもまた、人の手によるものだ。熟練の職人はいとも簡単に目を拾っていくが、目落ちしないように一つ一つ刺すのはかなりの技術を要する。また、つなぎ合わせる力が強すぎると着脱しにくくなり、逆に弱くてもゆるくなる。ちょうどいいテンションで、ドッキングすることも熟練の技によるものだ。こうやって人の手でつなぎ合わせて、やっと一枚のセーターになる。だが、ここで終わりではない。糸がチクチクと肌に当たらないよう端を丁寧に処理して、風合いを出すために縮絨機にかける。一枚ずつアイロンをかけ、ネームを付ける。そして、ほつれがないか、細かなゴミが付いていないかすみずみまで検品する。最後の最後まで手を抜くことなく作業に取り組む。こうしたディテールへの気配りが着心地のいいニットを生み出しているのだ。

BPQCのケーブルニットは、秋冬ファッションの楽しみを広げてくれそうなブラック、キャメル、ダークリバティといった深みのあるカラーが揃った。着丈を少し短くしているので、着るとすっきりとして見えるというのもこだわりだ。できあがったばかりの商品を見た真下さんは「寒い季節に心も温まるようなニットができました。ボリュームがあるのに想像以上に軽いので、手に取った瞬間、驚かれるのではと期待しています。着ているだけで気持ちがゆったり落ち着くので、外出先でも家の中でも楽しんでもらいたいと思います」。

米富繊維

1952年創業。自社に編地開発技術室を構え、素材開発から商品開発、量産に至るまで自社のファクトリーで一貫製造する。2010年にはファクトリーブランドCOOHEMを立ち上げ、高品質高感度のニットを世界へ発信。
掲載アイテム
ウール混ケーブルニット

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